患者様向け勉強会の内容紹介

毎年行っている朋進会合同勉強会でお話しした内容です。お役に立ちましたら幸いです。
昨今の透析医療の進歩に関する3つのトピックをお話しします。

1.ドライウエイトの決め方に関して

2.ボタンホール法の感染を抑える安全な方法に関して

3.内シャントの血流は少ないときには気が付くが、多すぎても気が付かない。きちんと測ることが大切。

ドライウエイトの決め方の関するお話

まず第一に、ドライウエイトの決め方の関するお話です。
実は、ドライウエイトを決めるのは大変難しくいくつかの情報、心臓の大きさ、血圧の推移、むくみなどを勘案して一所懸命考えます。ですが、当たっているかどうかを確かめる方法がありません。

フランスの南部にタッサン透析センターがあり、そこでは10時間透析が行われてきました。聞いたことがあると思います。そこの患者様たちは、透析後にはきちんとドライウエイトまで体重が下がるので血圧が高くありません。薬に頼らずに血圧は下がっているのです。望ましいドライウエイトまで時間をかけて治療すると薬がいらないばかりでなく長生きできることも分かっています。これが理想です。
ですが、多くの皆様は10時間透析を希望されないのではないでしょうか?
そこで、理想的な体重を当てることができる装置が開発されました。

この装置の前で数秒でドラウエイトが正しいかどうか教えてくれます。
まるで占い師のようです!
ドイツ製のフレゼニウス社、BCMという装置です。この装置の威力を端的に示した論文をご紹介します。


10時間透析を施行しているタッサンの患者様、ドイツのGIssennと言う街にある透析センターでBCMによりドライウエイトがあっていると判定された患者様、ドライウエイトが高いと判定された患者様達のその後を比べました。


さすがに、10時間透析を受けているタッサンの透析センターの患者様たちは長生きです。とことが、普通の透析センターで治療されていても、BCMで正常と判定されている患者様たちはタッサンの透析センターの患者様御同じくらい長生きでした。ところが、ドライウエイトが高いと判定された患者様は短命に終わってしまいます。

ドイツの透析センターでもドライウエイトは一所懸命考えてたと思いますが、BCM判定してみるとより精密にドライウエイトがわかり、患者様が長生きできることがわかります。
世界中の透析センターでBCMは導入されてドライウエイトの決定の重要な情報になっています。

食事に関して注意していただきたいことは
動物性タンパク質を中心にしっかり栄養を取る。
透析チャートに理想値の何%タンパク質を取ったか書かれているので参考にして下さい。
塩分摂取は極力6gを目指す。
これにより、理想的な長生きにつながるドライウエイトを達成しやすくなります。
結論として理想的ドライウエイトは、高血圧の薬に頼らず透析前の血圧が150以下。CTRは望ましくは48%以下というものです。

ボタンホール穿刺に関して

1972年にTowardovski先生が穿刺可能部位が狭い患者に対し同一部位への穿刺を行っている看護師を発見した。同法により痛みが減る事や合併症は特になく、針を繰り返し洗浄して使用しても穿刺可能であると報告しました。しかし、ボタンホール穿刺が発表されて40年以上経過しているが、ほとんどの論文で感染が起きやすいと指摘されており縄ばしご法標準法として推奨されています。同じような場所を指して瘤を作ってしまう穿刺方法はArea法と呼ばれ、行ってはならないとされています。


発表されたほぼ全ての論文で分かるように、40年以上感染を抑制する方法は不明のままでした。その難題に横浜南クリニックは挑み続けてきたわけです。2012年に感染が20回に1回起こると発表したカルガリー大学のマックレー先生は、ボタンホール孔に残るかさぶたを針で除去したと言われています。

南クリニックではかさぶたを痛みが少なくしっかりと除去するために湿潤治療という傷に対する標準治療で針穴を治療することにしました。すると、どうしたことでしょう♪左のようにかさぶたがついてきていた針穴が右のようにきれいになったではありませんか。

これは実は世界のだれも行っていない朋進会独自の技術です。


しかし、この世界初の技術をもってしても局所の発赤、疼痛などを伴う小さな感染は年間10例以上起こっていました。
そこで私たちが取り入れたのが、酸性水です。


実は酸性水には次亜塩素酸というばい菌に強くて皮膚に優しい殺菌成分が含まれます。しかし、作り立てでないと効果が落ちるので機械で作りながら使う必要があるわけです。

この機械は調理師の方たちが使用することで食中毒が予防できます。一日10回以上手を洗うそうです。
これを導入後、シャント感染が激減して1万回に1回以下にまで感染が減少しました。
痛み、ストレスが少なく、シャント肢がきれいに保たれる良い穿刺法だと考えています。


普通に穿刺していると上の写真のようなシャントの変形が起こりやすいです。一方ボタンホール法では10年透析をなさっていてもあまり針穴が目立ちません。女性の方には特にうれしい効果です。


これだけではありません。ボタンホール穿刺は痛みを減らします。


ボタンホール穿刺の方は、ストレスマーカー、クロモグラニンの上昇がありませんでした。
ストレスも減らすことができます。


ボタンホール法には痛みを減らし、ストレスをなくし、シャントによる腕の変形を防いでくれます。開始当初は多くの患者様に感染が起こりご迷惑をおかけしました。しかし、今でも世界では当時の南クリニックと同じ方法で行われ、感染が多いと言われています。

内シャントの血流を測るお話

次に内シャントの血流を測るお話です。
皆様の心臓はおよそ体重の8%の血流を拍出しています。50㎏の人なら4リットルくらいです。ところが、シャントには多い人では2リットルもの血液が流れます。
これを例えると、お父さんが40万円稼いできたのに、息子が20万円以上も浪費してしまっているようなものです。おかげでほかの家族は毎日ご飯と目刺し・・・。

冗談ではなく同じことが体で起こります。令和元年の透析医学会には恐ろしい映像が流されました。シャント血流を押して抑えると脳血流が増えるのです。シャントを開放すると脳血流が著明に減少していました。シャントは脳の血流さえ奪ってしまいます。
どれほど流れているか測定して適切にコントロールする必要があります。これまでシャントの血流を測ることは大変難しいことでしたが、それをすごく簡単に測定する方法を考案しました。


透析装置の回路を逆につないで、採血するだけです。
どこの透析施設でも簡単にシャント血流が測定できます。この方式は国内およびヨーロッパの学会に報告して計算法も無償で公開しています。
すると、1分間に2リットル以上流れている方もいらっしゃいました。そうした方には、シャントを維持するために心臓に無理がかかり、脳などの臓器にも十分血流がいかないということで、湘南鎌倉総合病院でシャントを細くする手術を受けていただきました。


すると、シャント血流は劇的に少なくなりましたが透析には支障ありませんでした。


心胸比は小さくなりました。


心臓に負担がかかるとhANPという物質が出てきます。いわば心臓の悲鳴です。
手術により改善することがわかりました。

次に手術を受けていただいた方の胸部写真を示します。


こちらの方は、強い心拡大が大幅に改善しています。シャントは心臓を苦しめる側面があることがよくわかります。これを例えると、毎月15万円浪費していたドラ息子が2万円で我慢するようになった、という感じです。

シャントは皆様の命をつなぐたいせつな血管です。毎年300か所もの穿刺に耐えながら皆様の全身を支えるけなげな存在です。ですが、多すぎる血流は全身に負担をかけ、コブができて蛇行してきます。適正な血流を維持することで太くなりにくい、見えないシャントとして維持してゆくこともできます。

今年の勉強会には多くの患者様にお越しいただきいろいろご質問もいただきました。大変楽しい時間を過ごさせていただきました。また、複数の患者様より講演の要旨を希望されましたので、休日診療の合間に作成いたしました。ご覧いただければ幸いです。
末筆となりましたが、皆様のご健勝をお祈りいたします。

令和元年9月16日
横浜南クリニック前院長
柴田和彦

横浜市磯子区磯子3-3-21 2階045-753-2233お問合せ受付時間 月~土曜日 9時~17時